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東京高等裁判所 平成5年(ネ)4095号 判決 1994年10月27日

東京都中野区新井一丁目二六番六号

控訴人

株式会社テクノスジャパン

右代表者代表取締役

瀧邦夫

東京都中野区新井一丁目二六番六号

控訴人

テクノスジャパン販売株式会社

右代表者代表取締役

瀧邦夫

東京都東久留米市八幡町二丁目五番一四号

控訴人

テクノスジャパン株式会社

右代表者清算人

瀧邦夫

右控訴人三名訴訟代理人弁護士

矢田次男

増田亨

スイス国ウェルシェンロール四七一六

被控訴人

グインツィンガー ブロス リミテッド

テクノス ウオッチ カンパニー ウェルシェンロール

右代表者

高木克二

右訴訟代理人弁護士

吉川精一

喜田村洋一

林陽子

小野晶子

主文

本件控訴をいずれも棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴人ら(第一審被告ら)

「原判決中控訴人ら敗訴部分をいずれも取り消す。被控訴人の請求をいずれも棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決。

二  被控訴人(第一審原告)

主文と同旨の判決。

第二  事案の概要

本件は、被控訴人が控訴人らに対し、不正競争防止法(平成五年五月一九日法律第四七号による改正前のもの)一条一項一号、二号の規定に基づき、控訴人らの商号の使用の差止及び同商号登記の抹消登記手続、並びに、同法一条の二、民法七〇九条に基づき、控訴人らの行為により被控訴人の信用が毀損され名声が稀釈されたとして五〇〇万円、弁護士費用として二〇〇万円の合計七〇〇万円の損害賠償請求及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求めている事案である。

一  争いのない事実

1  被控訴人は、スイス国法人であり、由緒ある時計メーカーとして、主として腕時計を製造販売している会社であり、日本においても腕時計を販売している。

2  控訴人株式会社テクノスジャパンは、昭和五六年一二月一一日に設立された日本法人であり、電子機器のハードウエア及びソフトウエア並びに周辺機器の開発業務等を主たる目的とする会社である。

3  控訴人テクノスジャパン販売株式会社は、昭和六〇年一〇月一七日に設立された日本法人であり、コンピュータのハードウエア及びソフトウエアの販売、輸出入を主たる目的とする会社である。

4  控訴人テクノスジャパン株式会社は、昭和六一年六月一三日に設立された日本法人であり、電子機器の製造、販売を主たる目的とする会社である。

5  控訴人三社は、代表者を同じくする関連会社であり、控訴人株式会社テクノスジャパンがコンピュータ用ゲームソフトの開発に従事し、控訴人テクノスジャパン株式会社がこのためのIC基板を製造し、控訴人テクノスジャパン販売株式会社が右コンピュータ用ゲームソフトを販売している。

二  争点

1  被控訴人の「テクノス」の表示は、被控訴人の商品表示及び営業表示として、日本国内において周知であるか。

(一) 被控訴人の主張

(1) 被控訴人は、一九〇〇年、創業者であるメルヒオール・グインツィンガーによって設立された由緒あるスイスの時計メーカーであり、その製造する時計は全世界で販売され、その品質については各国で高い評価が与えられている。

(2) 被控訴人の製品は、日本においても、一九五二年に株式会社平和堂時計店が総代理店となり(後に関連会社である平和堂貿易株式会社がその地位を引き継ぐ)、今日まで継続的に販売されている。特に、被控訴人の腕時計が高山あるいは深海への遠征時にも使用されたことにより、過酷な条件にも耐えうる優れた機能を有することが広く知られるようになり、さらに、日本の販売会社の積極的な広告宣伝活動と相まって、被控訴人の名称及び製品は日本国内において広く知られるに至っている。

(3) 被控訴人が製造する時計には、その文字盤上に「TECHNOS」の文字が表示されている。また、特に日本において顕著であるが、被控訴人の正式名称は取引の過程でそのまま正確に発音されることは殆どなく、通常は、「テクノス社」と略称されているのが実情である。ちなみに、「テクノス」の語は普通名詞ではなく、ギリシャ語で技術を意味する「テクネイ」を基として被控訴人が作成した造語であり、これが被控訴人ないし日本における販売会社の努力によって、わが国において広く認識されるに至ったものである。

以上のとおり、「テクノス」の表示は、被控訴人の商品を示す表示であるとともに、被控訴人の営業を示す表示として、日本国において広く認識されるに至っている。

(二) 控訴人らの主張

(1) 時計業界は既に成熟しきり、衰退しつつある現状にあり、また、被控訴人が最近五年間はテレビ宣伝をしておらず、被控訴人製品の販売高も減少しつつあることを考えると、被控訴人の「テクノス」なる表示が一度著名になったことがあったとしても、その後の業界及び被控訴人の衰退により、周知性が失われている。日本国内の一般人の殆どは「テクノス」だけでは、それがスイスの時計及び時計メーカーを表示するものとは認識しないのが現状である。

(2) 「テクノス」なる用語は「テクノ」という技術を意味する語の単なる複数形にすぎないものであり、「ソニー」、「ヤシカ」等とは異なり、被控訴人が特別に考案した造語ではない。すなわち、「テクノス」なる用語は、わが国において、「多数の技術」、「技術の集約」という意味で一般的に用いられており、それ故、技術を重視して事業展開している多数の会社がその商号の中に「テクノス」の用語を採用している。したがって、「テクノス」の表示自体に、特異性、顕著性はなく、そもそも原始的識別力の弱い標識といわざるを得ず、営業あるいは商品の識別力はない。

以上のとおり、「テクノス」の表示は、被控訴人の商品を示す表示あるいは被控訴人の営業を示す表示として、日本国において広く認識されるに至っているとはいえない。

2  控訴人三社の商号の使用により、控訴人三社の営業が被控訴人の親子会社ないし系列会社の営業であるとの混同が生じているか。

(一) 被控訴人の主張

(1) 控訴人ら三社の商号のうち、「株式会社」、「ジャパン」並びに「販売」の文字は一般的な用語であるから、何らの識別力も有しておらず、他との識別力を有するのが「テクノス」の部分でしかないことは明らかであり、したがって、控訴人らの右各商号は、被控訴人の周知表示である「テクノス」に類似する。

(2) したがって、このような関係にある「テクノス」をその要部として含む「株式会社テクノスジャパン」、「テクノスジャパン販売株式会社」あるいは「テクノスジャパン株式会社」という商号を有する控訴人ら三社について、一般人は、被控訴人と親子関係あるいは系列会社などの緊密な営業上の関係にあると誤信する蓋然性が高い。

(3) 不正競争防止法における「混同」の判断にあたっては、競争関係の存在及び当該商品主体又は営業主体の主観的意図いかんは問題とならないばかりでなく、被控訴人の主たる業務である腕時計の製造と控訴人らの主たる業務であるテレビゲームソフトの製造とは、コンピュータを利用した電子時計が存在し、また、時計のセイコーの関連会社であるセイコーエプソンがコンピュータを製造販売していることからも判るとおり、一般消費者にとっては、極めて近しい業種と認識されているから、本件においても、優に「混同のおそれ」があるというべきである。

(4) 控訴人らの主張する多数の「テクノス」の商標権者となっている平和堂貿易株式会社ないし平和堂株式会社は、前記のとおり、被控訴人の日本における総代理店ないしその親会社であり、かつ、その商標権取得については被控訴人の承諾を受けているものである。

(二) 控訴人らの主張

(1) 控訴人らの扱っているテレビゲームソフトの顧客層は、中学、高校生等の若年層が中心であり、被控訴人の高級時計の顧客層とは歴然と異なっているうえ、時計の「テクノス」を知っているのはせいぜい四〇才以上の人である。

(2) テレビゲームソフトの場合には、ソフトの中身がどのようなものであるかが重要であり、そのブランドは重要ではない。したがって、控訴人らの商号の使用によって、被控訴人の営業あるいは商品との混同は生じない。

(3) 控訴人ら三社は、被控訴人らが現に使用する字体その他の表現とは異なった控訴人ら独自のデザインを使用して、テレビ、その他の広告媒体に数多くその宣伝を行なった結果、テレビゲームソフト業界では著名となり、かつ年商五〇億円の実績を有する有力企業となっており、テレビゲームをやる人々(特に小中学生)の中では、むしろ、控訴人らの方が著名であり、「テクノス」とは、控訴人らのことであると認識されており、したがって、主観的にも客観的にも被控訴人の信用にただ乗りしておらず、また信用等を毀損したことも名声を希釈したこともない。

(4) 「テクノス」を含む多数の商標は、特許庁において「他人の業務に係る商品と混同を生ずるおそれがある商標」(商標法四条一項一五号)ではないと判断されたため、被控訴人以外の者を権利者として、商標登録をされていることからみても、本件においては「混同のおそれ」はない。

(5) 被控訴人の事業は、「時計」の製造販売業であり、被控訴人の周知性は、せいぜい、スイスの時計メーカーの「テクノス」あるいは時計の「テクノス」としてであるところ、控訴人らの主な事業の内容は、家庭用テレビゲームソフトの開発・製造・販売であって、これらは全く無関係な別業種として、取り扱われている。日本の時計メーカーがテレビゲームの分野に進出していない以上、スイスや他の国々の時計メーカーがコンピューター業界、さらに、テレビゲームのような他業種に進出するようなことは、現実にも将来的にもあり得ないことである。

第三  証拠関係

証拠関係は、原審及び当審の証拠目録記載のとおりであるから、これを引用する。甲第一ないし第一四三、第一八三、第一八六ないし第二三五号証、乙第一ないし第二五号証、第二六ないし第四〇号証の各一、二、第四四ないし第八七、第九五ないし第九九号証は、いずれも成立について当事者間に争いがなく、甲第一四四ないし第一八二号証は被控訴人主張の写真であることは当事者間に争いがなく、乙第四一ないし第四三号証は原本の存在及び成立について当事者間に争いがなく、証拠により、甲第一八四、第一八五号証(証人小野寺)、甲第二三六号証、乙第一〇五ないし第一〇八号証の各一、二(弁論の全趣旨)は、いずれも真正に成立したものと認められる(乙第一〇五号証の一については、原本の存在も認められる。)。

理由

一  争点1について

1  証拠(原審証人小野寺及び後記括弧内の各証拠並びに弁論の全趣旨)によれば、次の事実が認められる。

(一)  被控訴人は、昭和二七年ころから、日本において平和堂時計店(後に平和堂貿易株式会社((以下「平和堂貿易」という。)))を総代理店として腕時計を販売している。平和堂貿易は、特に昭和四四年ころから被控訴人の腕時計の広告宣伝活動を活発に行なっており、例えば、同年から始めたテクノス・ウオルサム人気コンテストは、テクノスとウオルサムの腕時計各数点の中から消費者が好みの時計を葉書に記載して応募し、抽選で右腕時計を応募者にプレゼントするキャンペーンであるが、一〇年位継続され、その後もタイトルを変えて五年位継続されたが、その応募者は、当初の五年間は、毎年約四〇〇万人前後にものぼり、その後も常時一〇〇万人を越え、これによって、被控訴人のテクノスの商標がわが国の消費者に広く知られるようになった。また、平和堂貿易は、右のキャンペーン以外にも、朝日、毎日、読売などの新聞、週刊誌及びテレビのコマーシャル、及び、全国の多数の小売店における看板や広告を通じて、被控訴人の「テクノス」及び「TECHNOS」の商標を広く日本国内において広告宣伝してきた。(甲一、二、四ないし一八二) 平和堂貿易が、被控訴人の右商標の広告宣伝に要した費用は、昭和五五年の二億九二〇〇万円をピークに、その後年間七〇〇〇万ないし八〇〇〇万円前後の年が多かったが、平成二年、三年には、「テクノス・シルバーダイヤモンド・コレクション」のタイトルの下に、腕時計、装飾品、文具などの商品の販売キャンペーンを新たに開始し、新聞、雑誌等に積極的に同コレクションの広告宣伝をしてきたため、広告宣伝費が年間約一億五〇〇〇万円に増加している。(甲一八三、一八五ないし二三六)

(二)  被控訴人の腕時計等の製品の日本における販売高は、昭和五七年以前の分については、平和堂貿易が当時取り扱っていた他のメーカーの商品と輻輳しているため、明確な数字が判明していないが、昭和五四年、五五年ころがピークで年間三二億円位であり、外国製輸入時計の中でも、三、四位程度の実績があった。被控訴人の腕時計等の製品の販売高は、その後減少してはいるものの、昭和五八年から平成元年ころまでは、年間六億ないし八億円程度を維持しており、平成二、三年ころは、年間五億円程度である。(甲一八四、二三六)

(三)  被控訴人の製品の売上高は、前記のとおり、昭和五四年、五五年ころがピークであり、その後減少しているが、日本経済新聞社が、平成三年二月に行なった、首都圏四〇キロメートル圏の腕時計を持っている二〇歳から五九歳までの男女ビジネスピープルを対象とした、「腕時計に関するアンケート」の結果によれば、「テクノス」は、会社・グループ評価において、海外の腕時計メーカーとしては、七八・四パーセントの知名度であり、オメガ、ロレックス、ラドー、ロンジンに次いで五番目に位置し、ブランド評価において、外国製ブランドとしては、七九・六パーセントの知名度であり、オメガ、ロレックス、ダンヒル、ラドー、ロンジン、グッチ、カルティエに次いで八番目に位置するものである。

(甲三)

(四)  右のように、被控訴人が製造し、平和堂貿易が日本において販売する腕時計には、いずれも「TECHNOS」というアルファベットが文字盤に表示され、顧客層としては二〇才から三〇才位のヤングマーケットを想定して、技術の「テクノス」として、広告宣伝活動がなされてきた。価格としては中級品である。被控訴人の正式名称は取引の過程では殆ど使われず、通常は「テクノス時計会社」あるいは「テクノス社」と略称されてきた。(甲一、二、四、五、七ないし一六、一八ないし一〇三、一〇五ないし一二五、一二七、一二九、一三〇、一三二、一三四、一三七、一三八、一四〇ないし一四二、一八三、一八八、一九二ないし二〇四、二〇七、二〇九ないし二一四、二一六ないし二一八、二二一、二二三ないし二三五)

(五)  以上によれば、「テクノス」は、被控訴人の商品表示及び被控訴人の営業表示として、わが国において周知であると、認めるのが相当である。

控訴人らは、「時計業界は、既に衰退しつつあり、また、被控訴人は、最近テレビにおける宣伝をしていないことからすると、被控訴人のテクノスの表示が一度著名になったことがあったとしても、その後の業界及び被控訴人の衰退により周知性が失われている。日本国内の一般人の殆どは、テクノスだけでは、それがスイスの時計及び時計メーカーを表示するものとは認識しないのが現状である。」と主張するが、前記認定のとおり、被控訴人は、平成二、三年においても、その売上高が減少しているとはいえ、年間五億円の売上高を維持し、広告宣伝費を年間一億五〇〇万円費やして、新たな商品販売キャンペーンを展開していること、及び、日本経済新聞社が平成三年二月に行なった「腕時計に関するアンケート」の結果によれば、「テクノス」は、首都圏四〇キロメートル圏の腕時計を持っている二〇歳から五九歳までの男女ビジネスピープルの間で、海外の腕時計メーカーとして、七八・四パーセント、腕時計の外国製ブランドとして、七九・六パーセントの知名度を維持していることからすれば、被控訴人の「テクノス」の商品表示及び営業表示は、昭和四五年から同五六年ころまでの間にわが国において、かなり著名な表示となっていたため、その後売上高や広告宣伝費が減少してはいるものの、現在においても、依然としてわが国において、商品表示及び営業表示としての周知性を維持しているというべきである。なお、控訴人らは、被控訴人の年間五億円の売上高に比して、一億五〇〇〇万円の広告宣伝費は、通常の経営感覚からあり得ないほど高くこれらの数字は信用できないと主張するが、前記一1(一)認定の事実のとおり、平成二、三年に、「テクノス・シルバーダイヤモンド」のコレクションの販売キャンペーンを新たに開始したものであって、このような販売キャンペーンの始めにおいて、広告宣伝費が売上高に比して多額になっても、広告宣伝の結果、売上高が増加することにより補填されるものであるから、どの程度の広告宣伝費をかけるかは経営判断であって、右一億五〇〇〇万円の広告宣伝費が、年間五億円の売上高に比して、通常の経営感覚からあり得ないほど高いものではない。

また、控訴人らは「テクノスの用語は『テクノ』という技術を意味する語の単なる複数形にすぎないもので、『ソニー』や『ヤシカ』等とは異なり、被控訴人が特別に考案した造語ではない。すなわち、テクノスの用語は、わが国において、『多数の技術』、『技術の集約』」という意味で一般的に用いられており、それ故、技術を重視して事業展開している多数の会社が、その商号の中にテクノスの用語を採用している。」と主張するが、証拠(原審証人小野寺)によれば、被控訴人は、その創業時において、ギリシア語で技術を意味する「テクネイ」を基にして「テクノス」なる語を創作し、社名の一部と商品名に採用し、以来被控訴人が製造販売する時計のブランドとして使用されてきたことが認められ、テクノスがわが国において用いられている一般的な用語であることを認めるに足りる証拠はない。なお、証拠(乙二ないし二五、七四ないし八六、九五、九六)によれば、全国で約三五前後の企業がテクノスの用語をその商号の全部ないし一部に用いていることが認められるものの、証拠(原審証人小野寺)によれば、被控訴人は、本訴において初めて右の事実を知ったものであり、現在その対策を検討中であることが認められ、また、わが国には、全国で見ると極めて多数の企業が存在しているのであるから、その中の僅かの企業の商号の全部又は一部にテクノスの用語が使用されているからといって、直ちにテクノスがわが国において用いられている一般的な用語であると認めることは相当ではなく、かえって、テクノスの用語をその商号の一部に用いている会社において、「テクノス」の名称が、テクノロジーあるいはテクニカルという一般的な用語の一部としての「テクノ」と「S」を組み合わせて創造したものとして用いられていることが認められ、わが国における一般的な用語として用いられたものではないと認められる。(乙一〇六ないし一〇八の各一)

したがって、右認定事実によっても、前記に認定した「テクノス」の商品表示及び営業表示としての周知性を否定することはできない。

二  争点2について

1  類似性について

控訴人らの商号「株式会社テクノスジャパン」、「テクノスジャパン販売株式会社」、「テクノスジャパン株式会社」は、「株式会社」、「ジャパン」、「販売」の部分を除いた「テクノス」の部分が要部であることは明らかであり、したがって、控訴人らの右各商号は、被控訴人の周知表示である「テクノス」に類似しているものということができる。

2  混同のおそれについて

(一)  証拠(原審証人小野寺)によれば、次の事実が認められる。

(1) 時計は、現在では、被控訴人を含め、殆どのメーカーが機械時計だけでなく、電子時計を多く製造し、内部の装置及び外部の液晶表示などに電子機器が使用されるに至っている。そして、電卓メーカーで著名なカシオが腕時計も製造販売しており、腕時計で著名なセイコーの関連会社であるセイコーエプソンがパーソナルコンピュータを製造していることからも明らかなように、腕時計と電子機器ないしはコンピュータとは密接に関連する分野となってきているため、コンピュータとは密接に関連するテレビゲームやコンピュータ用ゲームソフトと腕時計とは、業務分野として関連性を有するに至っている。

(2) 控訴人らの商号中の「テクノスジャパン」という名称は、被控訴人の略称である前記「テクノス社」の日本支社ないしは日本における子会社のような印象を与える。

(3) 平和堂貿易は、被控訴人の製品を販売している全国の小売店から控訴人らと被控訴人との関係についての問い合わせが毎月三、四件あったため、全国に一三店舗ある平和堂貿易の営業所に被控訴人と控訴人らとは無関係である旨の通知を出したが、その後も、小売店から控訴人らについての右問い合わせが継続した。

(二)  前記一認定の事実並びに右二1及び2(一)認定の事実によれば、控訴人らがその商号を利用して、テレビゲームやコンピュータ用ゲームソフトを製造販売することは、これが、被控訴人ないし被控訴人の関連会社が製造販売する商品であり、また、被控訴人ないし被控訴人の関連会社による営業活動であると混同されるおそれがあるものと認めるのが相当である。

控訴人らは、(1)控訴人らの扱っているテレビゲームソフトの顧客層は、中学、高校生等の若年層が中心であり、被控訴人の高級時計の顧客層とは歴然と異なっており、時計の「テクノス」を知っているのは、せいぜい、四〇才以上の人である、(2)テレビゲームゲームソフトは、ソフトの中身がどのようなものであるかが重要であり、そのブランドは重要ではない、(3)控訴人ら三社は、被控訴人らが現に使用する字体その他の表現とは異なった控訴人ら独自のデザインを使用してテレビ、その他の広告媒体に数多くその宣伝を行なった結果、テレビゲームソフト業界では著名となり、かつ年商五〇億円の実績を有する有力企業となっており、テレビゲームをやる人々(特に小中学生)の中では、むしろ、控訴人らの方が著名であり、「テクノス」とは、控訴人らのことであると認識されており、したがって、主観的にも客観的にも被控訴人の信用にただ乗りしておらず、また信用等を毀損したことも名声を希釈したこともない、(4)テクノスを含む多数の商標は、特許庁において「他人の業務に係る商品と混同を生ずるおそれがある商標」(商標法四条一項一五号)ではないと判断されたため、被控訴人以外の者を権利者として商標登録されている、(5)被控訴人の事業は、「時計」の製造業であり、被控訴人の周知性はせいぜい、スイスの時計メーカーの「テクノス」あるいは時計の「テクノス」としてであるところ、控訴人らの主な事業の内容は、家庭用テレビゲームソフトの開発・製造・販売であって、これらは全く無関係な別業種として、取り扱われており、日本の時計メーカーがテレビゲームの分野に進出していない以上、スイスや他の国々の時計メーカーがコンピューター業界、さらに、テレビゲームのような他業種に進出するようなことは、現実にも将来的にもあり得ない旨主張するが、(1)については、控訴人らの製品の購買層は、小、中、高校生が中心であり、大学生から二〇代の会社員位まで広がっているが、被控訴人の腕時計の購買層は、一八才位の若いサラリーマンから六〇才位までの人であり(原審証人松坂、小野寺)、その購買層は、一部において重なっており、購買層が歴然と異なっているということはできないし、控訴人ら主張のように、時計の「テクノス」を知っているのはせいぜい四〇才以上の人ということはできず、かえって、控訴人株式会社テクノスジャパンが主催する「テクノスジャパンファンクラブ」の会員で、時計に関連する表示として「テクノス」を知っている者が、一〇代の始めから二〇代後半までにわたっており(乙一〇五の一、二)、また、(2)については、テレビゲームやコンピユータ用ゲームソフトにおいて、ソフトの中身が重要であるとしても、他の分野の製品においても、商品の品質、内容が重要であるということと特段の差異があると認めることはできず、テレビゲームやコンピュータ用ゲームソフトについても、どこのメーカーのものであるかが、商品の品質、内容等の商品の信用に影響を与えるものであることを否定することはできない。さらに、(3)については、証拠(乙四一ないし四三、一〇五の一、二)によれば、控訴人ら三社の売上高(株式会社テクノスジャパンについては平成一年一〇月から同二年九月まで、テクノスジャパン株式会社については平成二年五月から同三年四月まで、テクノスジャパン販売株式会社については平成二年四月から同三年三月まで)の総計が、控訴人ら主張の水準にあること、及び、控訴人らの家庭用テレビゲームソフトの分野での現在における周知性は、控訴人ら独自の宣伝活動によるものであることは認められるが、被控訴人の「テクノス」の表示が周知であり、被控訴人の右周知表示と控訴人らの各商号とが類似し、被控訴人の商品と控訴人らの商品とが関連する業務分野にある以上、右事実によっても、被控訴人の商品及び営業活動と控訴人らの商品及び営業活動とが広義の意味で混同されるおそれがあることを否定することはできない。さらにまた、(4)については、証拠(乙二六及び三八の各一、二)によれば、控訴人株式会社テクノスジャパンが、指定商品を業務用テレビゲーム機その他又は録画済み磁気テープ、録画済み磁気円盤として、「TECHNOSJAPANcorp.」の商標権を取得していることが認められるが、証拠(乙二七ないし三〇の各一、二、三二の一、二、三四ないし三七の各一、二、三九、四〇の各一、二)によれば、各種の商品分野で「TECHNOS」又は「テクノス」の商標権を多数取得しているのは、平和堂貿易又はその親会社である平和堂株式会社であることが認められ、平和堂貿易は、前記のとおり、被控訴人の日本における総代理店として被控訴人の腕時計の販売及び広告宣伝活動をなしてきたものであり、また、その後、被控訴人を買収し、現在、被控訴人の資本出資者となっており、被控訴人と極めて密接な関係を有していること(原審証人小野寺)からすると、控訴人株式会社テクノスジャパンが前記商標について商標権を取得したとの一事をもって、混同のおそれについての前記認定判断を左右するのは相当ではない。最後に、(5)については、前記二2(一)(1)認定の事実のとおり、腕時計とテレビゲームやコンピュータ用ゲームソフトとは業務分野として関連性を有するに至っているのであるから、現在、日本の時計メーカーが家庭用テレビゲームの分野に進出していないからといって、控訴人らの商品及び営業活動が被控訴人ないし被控訴人の関連会社の商品及び営業活動であると混同されるおそれを否定することはできない。

三  以上によれば、被控訴人の商品及び営業活動と被控訴人らのそれとが混同されるおそれが認められる以上、特段の事情の認められない本件においては、被控訴人は、控訴人らがその商号を使用してテレビゲームやコンピユータ用ゲームソフトを製造販売することにより営業上の利益を害されるおそれがあると認めるのが相当である。よって、被控訴人の控訴人らに対する商号の使用差止請求及び商号の抹消登記請求は、理由がある。

四  損害賠償請求について

1  被控訴人の「テクノス」の表示が周知であることからすると、控訴人らは、過失により前記商号を使用してその商品を製造販売し、その営業を行なったものと認めるのが相当である。

2  被控訴人が控訴人らの行為により、その信用を毀損され名声を稀釈化されたことを認めるに足りる証拠はない。

本件に認定した諸事情に照らせば、控訴人らの本件行為と相当因果関係に立つ弁護士費用は、一五〇万円と認めるのが相当である。

五  よって、原判決の主文の限度で、被控訴人の請求を一部認容した原判決は相当であり、本件控訴はいずれも理由がないからこれを失当として棄却することとし、控訴費用の負担につき同法九五条、九三条、八九条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 伊藤博 裁判官 濵崎浩一 裁判官 押切瞳)

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